自分の時間と環境にこだわって暮らすなら、イナカフリーランスはどうだろう?

実はたくさんある地方の仕事、見つけるカギは人間関係にあり

最近、都会を離れて自然豊かな場所で暮らしたいと考える人が増えています。でも、「地方には仕事がない」と二の足を踏んでいる人も多いでしょう。「実は仕事はある」という「にいがたイナカレッジ」の皆さんに、その実情を聞いてきました。

ライター

やつづか えり
『くらしと仕事』初代編集長です(〜2018年3月)。コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』を運営中。『平成27年版情報通信白書』や各種Webメディアにて働き方、ICT、子育てなどをテーマとしたインタビューを執筆しています。2013年に第一子を出産。

若い世代の移住希望者が増えている

都市から田舎への移住希望者を支援するNPO 法人ふるさと回帰支援センターによると、2015年は前年に比べて移住相談件数が12,430件から、21,584件へと大幅に増えており、20代と30代が45%を占めたそう(詳細:20~30代を中心に、 全国に広がる田舎暮らし希望者 2015年ランキング:1位長野県、2位山梨県、3位島根県)。先日開催された「第2回全国移住女子サミット」には、ちょうどその年代の女性がひしめき合い、熱心に情報交換をしていました。

移住する上での不安 第1位は「働き口が見つからない」

でも、移住希望者の多くを躊躇させるのは「仕事がない」ということ。政府の調査でも、「移住する上での不安・懸念点」のトップは「働き口が見つからない」でした。

新潟の農村に移住した人達の職業は?

都会と比べ、地方では求人数が少ないのは事実。でも、実は仕事はたくさんあり、特に若い労働力が求められているというのは、現場を知る人達がよく言うことです。

2016年12月に開催されたイベント「next inacollege meeting」-雇用はないけど仕事はあるイナカフリーランス-」で、その実態を聞いてきました。イベントを主催した「にいがたイナカレッジ」は、新潟県中越地域の農村で農業や田舎暮らしのスキル、地域づくりなどを学ぶインターンプログラムを提供しています。長期インターンの場合、期間は1年。2016年度は下は22歳から上は44歳まで、8名の研修生が8つの地域に散らばって学んだそうです。

インターン中は生活に必要な住居や車などが提供され、水道光熱費の負担もなし、その上、月5万円の手当が出ます。食費や交通費や生活必需品を5万円で賄えるかというと、十分足りるとのこと。インターン生が食費として使うのは、月5千円程度なのだとか。これは、地域の方から農産物を分けてもらったり食事に呼ばれたりすることがしょっちゅうだからです。そんな地元の人々の温かさや田舎暮らしの魅力に触れ、インターン終了後も地域にとどまって生活していくことを選択する人も多いそうです。その場合、自分で稼いでいく手段を見つけなければいけません。彼らがどんな仕事をしているのかというと、地元の生産組合やNPOに就職したり、お店を開業したりするほか、畑仕事や除雪作業など、季節によって発生する様々な仕事を手伝う「便利屋さん」のような形で収入を得ている人も(一生懸命お手伝いをしているうちに、「ぜひうちの農園を継いで欲しい」と後継者指名される人も出てきているそう)。

たくさんあるけれど、求人情報では見つからない仕事

にいがたイナカレッジでは、この便利屋的な働き方を「イナカフリーランス」と呼び、そういう働き方をより多くの人ができるようなしくみを作っていくことを考えているそうです。その第一歩として、インターン生を受け入れている地域の方たちに、「イナカフリーランスにお願いしたい仕事」を考えてもらった結果が、こちら。25種類もの仕事が挙がっています。

人手不足、高齢化に直面する地域の皆さんは、上に上がっているような仕事をお金を払ってでも頼みたいということなのですが、ハローワークなどでは、こういった情報は出てきません。なぜなら、頼む相手は誰でもいいわけではないからです。にいがたイナカレッジのインターン生たちは、1年の研修中に地域の人達と交わって信頼関係ができているので、「うちのコレを手伝って!」という声が次々にかかり、それで生活ができてしまうというのが、実情のようです。

イナカフリーランスはお金より時間・環境を求める人におすすめ

ここまで読んだあなたは、「イナカフリーランス」という働き方に魅力を感じましたか? 次のような理由から、「うーん」と首をかしげる人が多いのではないでしょうか?

イナカフリーランスとしてやっていけるだけの人間関係が築けるのか?

信頼関係のもとで得られる仕事ということは、縁もゆかりもない移住者が突然これをやろうとしても無理だということです。「地域に馴染めばやっていけるよ」と言われても、事前に収入を得る当てもなく移住するのは、やっぱり不安ですよね。これに関しては、にいがたイナカレッジのインターンプログラムのように、本格的な移住の前に地域とのつながりを作れる機会が今はたくさんあります。自分が馴染めそうな場所を探し、その地域での暮らしをイメージできるようになってから、移住を実行するのが良いでしょう。

将来ずっと、「便利屋さん」でいいのか?

住みたい地域があり、そこで人間関係を築いていける自信のある人でも、「ずーっと便利屋でいいのかな?」、「もっと自分のスキルを活かせる仕事をした方がいいのでは?」という不安を感じるかもしれません。最初は初めてのことばかりで面白いかもしれませんが、慣れてしまえば「誰かのお手伝い」を続けていてもスキルアップや挑戦の機会が得にくく、日々の充実感が得られなくなってしまう可能性もあります。

でも、いつかは起業するとか、お店を開くといった目標を持ちつつ、その夢が軌道に乗るまで稼ぐ手段としてなら、イナカフリーランスはとても良い働き方だと思います。自分で何かを始めるにしても、人とのつながりや土地勘がないところでは成功しづらいですから、イナカフリーランスをやりながら地域の人との相互理解を深めていくことは、きっと役立つはずです(にいがたイナカレッジのインターンを経て古民家カフェを開いた女性は、インターン中に築いた人間関係のおかげで地元の人から色々な支援を受け、十数万円の資金で開業を実現したそうです)。

また、にいがたイナカレッジの皆さんによれば、イナカフリーランスに一番向いているのは、「自分の時間」を大事にしたい人だといいます。クリエイターやアーティスト、田舎暮らしをじっくり楽しみたい、といったタイプの人たちは、せっかく都会の喧騒を逃れ、豊かな自然の中に自分の城を持ったのに、毎日同じ時間に勤務する会社員的生活は望まないでしょう。むしろ、自分のペースや季節に合わせて仕事を選べるイナカフリーランスがぴったりだというわけです(ただし、地域に受け入れられないとイナカフリーランス的仕事は得られないので、人づきあいが嫌いだと上手く行かないことに注意!)。

一口に「移住」といっても、それによって得たいものは人それぞれ。移住を考えている方は、すでに移住している人や支援機関などから情報収集をしつつ、自分が大事にしたいものは何なのか、じっくり考えてみることが重要です。

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