2017年9月8日 更新

子どもの将来は働き方の選択肢が多様であってほしい。世界50カ国の同僚とリモートワークする高野直子さんが考える「働きやすさ」とは

3ヶ月のサバティカル休暇も! 社員との長期的な関係を重視する会社の働き方

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アメリカに本社を置くAutomattic社は、社員たちが世界50カ国以上でリモートワークをしています。その中で、日本で働く唯一の日本人が高野直子さん。東京にいながら各国の関係者たちと連絡を取り合い、同社が提供するブログサービス WordPress.comの翻訳プロジェクトの管理や、海外マーケティングを担当しています。

2歳の女の子のお母さんでもある高野さんに、育児との両立もしやすいAutomattic社のワークスタイルや、リモートでのコミュニケーションのコツ、子どもの将来も見据えた理想の働く環境について、 『くらしと仕事』編集長がインタビューしました。

高野直子(Automattic 社 Globalizer)

高野直子(Automattic 社 Globalizer)

個人ブログを書き始めたのをきっかけとしてWordPressコミュニティに13年間関わり、WordPress創始者が起業した100%リモートワークの企業、Automattic社で7年前より働きはじめる。現在は同社のプロダクトの国際化を行う部署で翻訳プロジェクトの管理や海外マーケティングを担当している。

 

東京のカフェから世界の社員とリモートワーク

やつづか: 高野さんは、平日はどのようなタイムスケジュールで過ごしていますか?

高野: 朝はだいたい9時前に娘を保育園に連れて行って、夕方17時半くらいに迎えに行きます。保育園に送って、そのままこの時間制のカフェに来て仕事をすることが多いですね。ただ、大きいモニターが必要なときや、Skypeで音声チャットをするのに周りがざわざわしていない方がいいときは、自宅で仕事をします。

やつづか: 保育園に迎えに行って家に戻ったら、仕事はしない?

高野: パソコンに向かってガッツリ仕事、ということはないですね。たまに夜にミーティングをすることはあって、そういう場合は9時以降とか、子どもが寝た後の時間にしてもらっています。

やつづか: その時は、旦那さんは帰ってきているんですか?

高野: そうですね。いつも夕食は一緒に食べていますよ。ミーティングがある日は、ご飯を食べて、お風呂に入り、子どもを寝かせて、それからパソコンを立ち上げて、という感じです。

やつづか: 時差のある各国のスタッフとミーティングをしようとすると、時間を合わせるのも大変ですよね。

普段はそうやってオンラインでコミュニケーションを取っているわけですが、年に1回は全員で集まるそうですね?

高野: はい。前回は10月に1週間、カナダのウィスラーで合宿をしました。

やつづか: その時は、お子さんは?

高野: 子どもは家にいましたよ。

やつづか: じゃあ、ずっと旦那さんと一緒に。

高野: はい。夫はだいたい定時で帰ってこられるので、私の出張中は毎日保育園に送り迎えをして、ご飯も作ります。娘も多少自分のことができるようになったので、ウィークディはつつがなくやっていたみたいです。連休もあったりして、休みの時はちょっと大変だったかもしれないですね。2人いれば交代で見ていられますけど、ひとりだと自分のことをする時間がなかなか取れないので。

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1週間の合宿でお互いを知り合い、リモートコミュニケーションが円滑に

やつづか: 合宿には世界各国から社員の方が集まるそうですが、500人というとかなりの人数ですね。

高野: ちょっとしたカンファレンスみたいですよね。会社の規模がだんだん大きくなっているので以前に行ったところに入りきれなくて、合宿を企画するチームは毎年会場を探すのが大変だったみたいです。この間は2つの大きなホテルに分かれて泊まって、まだ余裕があるので、そこに入りきれなくなるまでは今後も同じ場所でやっていくことになりました。

やつづか: 合宿中はどのように過ごすんですか?

高野: 経営陣や色々なチームによる情報共有と質疑応答のセッションや、スキルアップのための様々なクラス、社内用のツールを作成するプロジェクトに参加したりします。ランチとディナーは、毎回違う人とマッチングされて一緒に食べるんです。各自のプロフィールを表示するツールがあって、会った人にマークを付けられるんですね。そのデータを使って、会ったことない人同士をマッチングしているので、毎回初めての人と自己紹介をしているような状態でした。

やつづか: 1週間ずっと? それはちょっと、疲れそうですね。

高野: そうですね。普段はひとりでリモートワークをしていて人と会うのが苦手、という人もいますし、そういう人は大変ですね(笑)。でも、そこで会った人と後で一緒に仕事することになったりすると、やっぱり人となりがわかっているので安心感があります。普段は交流する機会のない他のチームのことなんかを突っ込んで聞いたりもできますし、有意義だと思いますね。

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即レスは不要、必要なことを1度で伝えきる。グローバルなチームならではのリモートコミュニケーション術

やつづか: 合宿ではテキストライティングのクラスを受講されたそうですね。どんな学びがありましたか?

高野: 仕事のやり取りで英語は毎日書いていて、それに対してそんなに苦手意識はないのですが、例えばブログのような形でまとまった文章を公に出すのは、パーフェクトに書けないから躊躇する気持ちがあったんですね。でもそのクラスに行ってみて、ネイティブの人でも意外と苦手意識があることが分かって、少し安心しました。考えてみれば、人に見せる文章を書くというのは日本語でも大変ですよね。

まずは実践を積み重ねることで苦手意識を取り払っていけるように、私ももっと、外の人に向けて英語で書くことをやっていこうかな、と思いました。

やつづか: テキストチャットでのコミュニケーションなど、普段の仕事上のやり取りで、意識していることはありますか?

高野: 情報を全部上げちゃうということですね。「ねえねえ、質問があるんだけど」という感じで、チャットで声だけかけて質問の内容が書かれていない、というのは会社の中でも嫌われています。

やつづか: それって、対面や電話でのコミュニケーションとはちょっと違いますね。電話だと、最初に「今いい?」と聞くのは、良い気遣いだとされていますが。

高野: チャットだと相手がいつ見ているか分からないので、必要な情報はなるべく全部書いて、一気に上げちゃってから返信を待つ、というスタイルがいいんです。そうでないと、メンション(自分宛のメッセージの通知)がきたから見に行っても、具体的な内容が書かれていないと話が進まない。次のメッセージがくるのを待つだけ時間のロスが発生してしまう。だから、「声だけかけるのはやめてくれ」って言われますね。

やつづか: 「そういうの、ちょっと困るよ」みたいなことはフィードバックされるんですか?

高野: 結構繰り返し言われますね。会社に入ったときに読む資料なんかにも書いてあります。そうされたら困るな、というのは経験で分かってきますし、ダラダラと他人の時間を奪うような人は仕事ができないとみなされる雰囲気もあって。最初から全部書いてあって、ドキュメントなんかもまとめてリンクが貼られていたりすると、「この人はできるな」と感じます。

やつづか: 日本の中でリモートワークをしていると、チャットでも「即レス」を期待されることがあります。でも、それは時差がないから成り立つわけですね。

高野: そうですね。でも、時差の問題だけではなく、そんなに急がなければいけないことって意外と少ないんです。半日くらい余裕をもってもなにも問題はないので、例えば朝だけオンにして日中はオフにしている人とかもいます。今の環境は、ひとりで集中して何かをする時間と、コミュニケーションに費やす時間とを、自分でコントロールできるのがいいですね。

やつづか: みんなで意見を出し合って何かを決めるときは、リアルタイムにやり取りできると速いと思いますけど、非同期(相手の都合が良い時に返事をしてもらう形式)でやるなら、結論を出す期限を決めて、それまでに意見を出してもらうというようなやり方をすればいいんですね。

高野: 私の友人で、フリーで海外の色々な企業の仕事をしている人は、「返事がなかったらこう決めます」と宣言して進めちゃうと言っていました。確かに、返事をしないというのは自分の中でそんなに重要性が高くないということで、小さなことならそんな進め方もいいのかな、と思います。ちゃんとした話し合いが必要なことを放っておくと後で問題になったりするので、そこは見極めが必要ですけど。

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サバティカルに育休……、長期休暇は当たり前だから仕事の調整にも困らない

やつづか: 高野さんは先日、サバティカル休暇を取っていたんですよね。

高野: はい。(2016年の)6月から3ヶ月取りました。その間は東京でイベントの手伝いをしたり、ウィーンのイベントに参加したり、アメリカの夫の実家で2週間過ごしたり。その間に引っ越しもしたので、結構あっという間に過ぎていきました。

やつづか: それは会社の制度なんですね?

高野: そうです。5年に1度、2〜3ヶ月の休暇を取ることができるというもので、以前からそのくらい休む人はいたんですけど、最近本格的に制度化されて、ぜひ取りなさいと推奨されるようになりました。

やつづか: 会社はどういう意図で、推奨しているのでしょう?

高野: やっぱりリフレッシュというか、ちょっと他の世界を見たり、家族と過ごす時間なんかをゆっくり取ってほしいということだと思います。うちの会社はスタートアップですけど、どんどん人が入れ替わるというよりは、長期的に雇いたいと考えているんですね。1回入ったら何十年みたいなスパンでいてほしいと。だから社員の満足を高めるという意味で、何十年の間の何ヶ月と考えれば短いし、それがプラスになるなら良い、という感覚かもしれないですね。

やつづか: 高野さんのチームでも、サバティカル休暇を取る人は多いですか?

高野: うちは5人のうち2人はまだ入って2年くらいですけど、残りは私と同じ頃に入っているので、みんな順番に取ってますよ。サバティカルだけでなく、産休を取る人も多いです。今は私以外は全員男性のチームですけど、5人中4人がここ2年くらいの間に子どもが生まれていて、みんな順番に産休を取り、サバティカルも取り……、という感じです。

やつづか: 産休やサバティカルで誰かが長期的に休むときは、代わりの人が来るんですか?

高野: もちろん、可能なら誰か来てもらいますし、無理だったら、仕事の内容をちょっと見直したりします。

やつづか: やり方を変える?

高野: そうですね。あとは、周りのチームで助け合って仕事を分けたり。でも、普段から誰かが何週間という単位で休むことは結構あるので、休んでいる間仕事が止まるということは、基本的には無いようになっています。

やつづか: それは、夏の休暇なんかで休むということですか?

高野: そうですね。年末年始も、2週間くらい休む人がいますし。

やつづか: 国際色豊かだと、休みたい時期も人によって違いそうですね。

高野: はい。日本にいると、年始はちょっとゆっくりしたいなと思ったりしますが、どちらかというと年末早めに休みに入って年始は早く戻った方が他の人と都合が合いやすかったりします。でも、例えば中国だと新年の時期も違いますし、ユダヤ教の人は秋に長期で休んだり、みんな結構、それぞれの宗教や国の祭日に合わせて休んでますね。

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娘のためにも、様々な働き方が選択できる世の中に

やつづか: 最近、先進的な会社ほど、休暇を取ることに寛容だったり、サバティカル休暇の制度を設けていたりする印象があります。

高野: 会社では、「パフォーマンスを出すために休むことは必要」という考え方は認知されていると思います。

やつづか: そういう社風が気に入ってAutomatticで働いているという人も多いのでしょうか?

高野: 私自身も、それは結構重要ですね。他に同じような会社があったとしても、柔軟な働き方ができる方を選びたいと思います。うちは副業はできないんですけど、オープンソース活動(プログラムが無償で公開されているソフトウェアの開発に、ボランティアで参加すること)のようなサイドプロジェクトをしている人もいるので、自分の時間が持てるという点に魅力を感じている人は多いのではないでしょうか。

やつづか: グローバルな会社の社員として日本で働いていて、不便に思うこととか、「こうだったらいいのに」と感じることはありますか?

高野: 日本だけでなく世界的にそうだと思うんですけど、ひとつの会社が色々な国の人をリモートで雇うということに合ったしくみがまだできていないですよね(※)。こういう働き方をしている人がもっと増えて当たり前になれば、世の中の仕組みも変わるんじゃないかと思います。

(※Automatticの場合、本社があるアメリカ、支社があるカナダ、イギリス、アイルランドなどのスタッフは現地社員として雇用されていて、それ以外の国のスタッフは、便宜的に業務委託契約を結んで働いています。)

やつづか: 確かに、法制度が現実に追いついていない状況ですね。

高野: それと、日本にいるスタッフが私ひとりなので仕方ないんですけど、オフィスがあったらいいな、と思うことはありますね。会社関連の本とかグッズなんかを家に置かないといけなくて、倉庫を借りるほどの量でもないんですけどかさばるんですよ。イベントの“のぼり”とかもあるので(笑)。

『くらしと仕事』には、社内託児所を作った会社の記事がありましたよね。すごくいいな、と思いました。ああいうことって、同じニーズを持つ人が集まらないとできないので羨ましいです。

やつづか: 最近は、リモートワークをする社員のために、自宅近くのサテライトオフィスを契約する会社も出てきていますね。個人や1社だけで新たなオフィスを契約するのは大変でも、シェアすればリーズナブルです。託児付きのコワーキングスペースももっと増えるといいですよね。

高野: 会社は違ってもたまたま近くに住んでいるということで、近所のオフィスを共有する関係ができたら面白いですよね。子どもも小学生になれば、ずっとつきっきりで見ている必要はないので、大人が仕事して、その近くで子どもたちも遊べる学童コワーキングみたいな場所があればいいな、と。

やつづか: それ、いいですね!

高野: 育児だけでなく介護の問題もあるし、リモートワークがもっと一般的になって、家族のそばで働くことができるようになると、助かる人が増えると思うんです。社員はちゃんと仕事をし、会社も家族のことまで考えてくれる、そんな信頼関係が当たり前に持てるようになるといいですよね。

親として、子どもが将来どんな職業に就くのかな……、と思ったときに、いろいろな選択肢があって、かつどれをえらんでもそれなりに安心して仕事ができる世の中になっていてほしいと思います。

やつづか: 近い将来にAIやロボットがやる仕事が増えていくと言われていて、今の時点で子どもたちがどんな仕事をするのかは分かりませんね。仕事の内容は予測がつかないけれど、働く環境は整えていきたいですね。

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2017年はボランティアコミュニティとの関わりを深めたい

やつづか: 2017年にチャレンジしたいと考えていることはありますか?

高野: 私がやっている仕事は「翻訳管理」と言って、元々英語で作られているソフトウェアを色々な言語で使えるようにするということです。翻訳を専門の会社にお願いするほか、ボランティアでやってくださる方々もいて、これからは、そういうコミュニティに入り込んで一緒にやっていく機会を増やしたいと思っています。

やつづか: ボランティアの方は、自国の言葉に翻訳するんですか?

高野: そうですね。年末にどの言語の人が一番たくさん翻訳をしたか集計したのですが、ウルドゥー語とか、アゼルバイジャン語とか、私もよく知らないような言語も結構あるんですよ。そういう方々は母国語で使えるソフトを増やすということに楽しみを感じてくださっているので、ただ無償でやってくれていると捉えるのではなく、その人達の活動が充実する手助けができれば、と考えています。

やつづか: 先ほど出てきたオープンソース活動も、翻訳のボランティアも、お金以外の何かが得られる「新しい働き方」のひとつで、今後そういう場で活躍する人も増えていきそうですね。

今日は、ワーキングマザー同士、これからの働き方の可能性が感じられるお話をできて、とても楽しかったです! ありがとうございました。

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